平均余命だけでは見えない健康寿命
日本の地域ごとの健康状態を考えるとき、まず区別したいのが「平均余命」と「健康寿命」です。平均余命は、ある年齢の人が平均してあと何年生きるかを示す指標です。一方、健康寿命は、日常生活に大きな制限を受けずに暮らせる期間を考えるための指標です。
両者は関連しますが、同じものではありません。長く生きられる地域であっても、介護や健康上の制限を抱える期間が長い可能性はあります。逆に、平均余命だけでは目立たない地域差が、健康寿命をみることで浮かび上がることもあります。
香港の読者が日本の地域差を見る際にも、この区別は重要です。都市の規模や医療機関の数だけで、住民がどれだけ自立して暮らせるかを判断することはできません。健康寿命を考えるには、医療へのアクセスに加え、健診の受診、日常生活、地域とのつながりなど、複数の側面を組み合わせて見る必要があります。
札幌市の数字が示すこと、示さないこと
総務省の「社会・人口統計体系」によると、2020年度の札幌市における男性の0歳平均余命は81.30年でした。同じ2020年度、札幌市中央区では81.60年でした。
この差は、札幌市全体と、その一部の区を比べたときに、平均余命にも違いが表れることを示します。ただし、この数字だけから、中央区の健康寿命が長い、あるいは住民がより健康であると断定することはできません。平均余命は「どれだけ生きるか」に関する指標であり、「どれだけ健康に暮らせるか」を直接表す指標ではないためです。
| 地域 | 指標 | 時期 | 数値 |
| 札幌市 | 男性の0歳平均余命 | 2020年度 | 81.30年 |
| 札幌市中央区 | 男性の0歳平均余命 | 2020年度 | 81.60年 |
このような数字は、地域差を考える出発点になります。しかし、健康寿命を比較するには、同じ地域・同じ性別・同じ時期にそろえた健康状態のデータが必要です。平均余命と健康寿命を混ぜてしまうと、地域の暮らしやすさを過大に評価したり、反対に問題を見落としたりするおそれがあります。
医療施設の多さだけで地域を評価しない
2020年度の札幌市では、人口10万人当たりの一般病院数は9.0施設でした。病院の数は、医療サービスにアクセスできる可能性を考えるうえで参考になります。しかし、施設数が多いことだけで、健康寿命が長いと結論づけることはできません。
健康寿命には、病気の予防、早期発見、治療後の生活、身体機能、社会参加など、さまざまな要素が関係します。一般病院の数はその一部に関係する情報にすぎず、住民の日常生活全体を説明するものではありません。
また、都市のなかでも区ごとに人口構成や暮らし方は異なります。市全体の数字をそのまま各地区に当てはめるのではなく、行政区域の大きさやデータの単位を確認しながら読む姿勢が必要です。これは日本に限らず、地域別の健康統計を読むときに共通する注意点です。
健診を受けない人の存在にも注目
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、2024年には、健診などを受けなかった20歳以上の者が33763千人でした。この数字は、健康づくりを考える際に、医療機関や病院の配置だけでなく、健診につながるかどうかも重要な論点であることを示します。
健診を受けない理由は、この資料だけから特定できません。したがって、個人の意識や地域の制度について一つの原因に決めつけることはできません。ただ、健康状態を把握する機会に差があれば、病気の発見や生活改善のきっかけにも地域差が生じる可能性があります。
健康寿命の地域差を理解するには、平均余命、医療施設、健診といった異なる種類の情報を、同じものとして扱わないことが大切です。数字を比較するときは、指標の意味、対象者、地域、時期を確認する必要があります。
地域差を読むときの基本
日本の都道府県や市区町村の健康寿命を比較する記事では、順位だけに注目すると、地域の実情を単純化してしまうことがあります。健康寿命は、地域の医療だけでなく、住民の生活環境や社会との関わりとも結びつく指標です。
そのため、読者が見るべきなのは「どの地域が上か下か」だけではありません。平均余命と健康寿命の差はどのように表れるのか、医療施設の分布はどうなっているのか、健診の機会に届いていない人はいないか。こうした問いを重ねることで、地域の健康をより立体的に考えられます。
今回確認できる資料からは、札幌市と札幌市中央区の男性の0歳平均余命、札幌市の一般病院数、そして健診などを受けなかった20歳以上の者の数が読み取れます。一方、これらの数値だけで、日本の各都道府県の健康寿命の順位や、地域ごとの原因を決めることはできません。健康寿命を正確に比較するには、健康寿命そのものを示す統一された地域別データを、対象と時期をそろえて確認することが欠かせません。
出典
- 総務省「社会・人口統計体系」:https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0000020209
- 総務省「社会・人口統計体系」:https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0000020309
- 厚生労働省「国民生活基礎調査」:https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003026492